走れメロス

 言わずと知れた太宰の走れメロスを読んだ。
 今まで僕が読んだ他の太宰作品と違い、この短編集には、生きるのは辛いけど捨てたもんじゃねえよ的な雰囲気を感じた。
 走れメロスは何度目かわからないくらい読んだことがあるが、飽きない魅力を持っていると思った。力強い文体、メロドラマ的なストーリー、特に読者を盛り上がらせる起伏の付け方がプロだなと巧いなと感じた。
 富嶽百景も国語の教科書に載っていた関係で1度読んだことがあり、久しぶりに読んだのだが、すがすがしいような読後感が、良い意味で太宰らしくない感じだった。この作品を書いた時期は作品中にも書かれている通り、太宰の私生活が安定していた時期で、それがそのまんま作品に影響しているようだ。
 駆込み訴えは、単純におもしろいと思った。ユダがキリストを裏切ることを題材として書いており、ユダがぐだぐだと行ったり来たりするように悩む様なんかは太宰の真骨頂だと思う。このような視点は非キリスト教圏の作家ならではだ。
 そして、この短編集で僕にもっとも強い印象を残したのは東京八景だ。生まれてから中期(ちょうど東京八景を書く頃まで?)の自伝的な作品で、というより、もうこれは自伝だろう。太宰の苦悩が手に取るようにわかるよう描かれていて、太宰って憎めないやつだなと不覚にも思ってしまった。同情を買おうとしてるなと、悪意を持ってしまわせることなく、物語の語り手(太宰)がすごく弱い人間だと、隠さず恥部までさらしていて、また、周りの人物の厚意をわかっていながら素直に受けられないゆがんだ感情に、ただ単純に共感した。登場人物である彼の周りの人物が皆生き生きしており親切で、ほほえましい。それと太宰の感情とのギャップが何とも言えない物語だった。
 この本には以前に読んだ女生徒なども収められている。

走れメロス (新潮文庫)

走れメロス (新潮文庫)