貧困旅行記

 つげ義春の貧困旅行記を読んだ。より鄙びたほうへ、より荒んだほうへ、より寂れたほうへ志向していくつげの旅行。彼は言う、自分を締めつけようとする自分を否定する以外に、自分からの解放の方法はないのだと思う、と。無意識のこの衝動から彼は旅行をし、それを記したものがこの本だ。
 ファンだ、と手紙をもらった面識の無い女性と結婚しようと旅に出てみたり、つぶれた鉱泉宿を買い取ってそこで生活していきたいなと思ってみたり、つげは僕らの想像の及ばないような論理でもって動き、彼のマンガそのものの鬱々とした文章を、とつとつと綴っている。個人的には太宰を思い浮かべるような徹底した自己否定から始まっている旅行の紀行文だから、なんか読んでいてそっちの世界に引き込まれそうになる。

貧困旅行記 (新潮文庫)

貧困旅行記 (新潮文庫)