妊娠カレンダー

 小川洋子の妊娠カレンダーを読んだ。どことなく静謐な、雰囲気のある文章だなという第一印象。村上春樹の影響を感じさせる、まどろっこしい比喩表現が少々鼻についた。春樹のどこかほのぼのとさせるようなセンスが無いからだろうか?
 僕は、芥川賞受賞作である表題作よりも、一緒に収められているドミトリイや夕暮れの給食室と雨のプールの方が印象に残った。特にドミトリイが強い、不思議な印象を残した。村上春樹の小説を連想させる。それは上に挙げた比喩によってでなく、物語の一番底の部分に、デタッチメントというテーマ(というか基本概念??)が流れているからだ。この作品の中では人間は人間でない。うまく説明できないのだが、肉体の無い観念だけの存在というか何と言うか(物語の中で肉体の欠落が語られるのだから左の表現は明らかに間違っているけど、他に言葉が浮かばない)。物語自体も、登場人物と同様に、決定的に何かがかけているという印象を与える。「先生」に両手左足が欠けているように、「わたし」にも何か決定的なものが欠けている。それは何?と問われると答えることができないのだが、直感的に感じる。先生の不具、学生の蒸発、天井のしみ、生活のリアリティの欠落、と、次々に並べ立て、欠落をイメージさせる。
 なんか印象派の絵をイメージしてしまった。

妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)