三匹の蟹

 大庭みな子の三匹の蟹を読んだ。おっ、と言わせるインパクトのある小説だった。
 この抑えられた文章であれだけ卑猥な感じの小説というのがとにかくすごいと思った。もちろん35年も前に大っぴらに性的な表現は遣えなかっただろうけど。テレビで言えば、深夜番組じゃなくて昼ドラという感じ。婉曲婉曲でとりあえず本番を見せなきゃいいんだ的な表現で、かえって卑猥な感じ。中盤のパーティの会話で「インテリ」な登場人物たちが全員分厚い化けの皮をかぶりながら、醜いほどの欲が粘りつくような視線をやったり、頭の中で濃い思いをめぐらせたりしているシーンはすごいの一言だ。おいおい、いきなり3Pとか始まんのかよ、といいたくなるくらいの雰囲気が漂っている。ずっと。しかし、湿っぽさというよりも、乾いた、風化してしまったような印象を受ける。浮遊感、孤独感、、、とか。
 主人公由梨が、この嘘でベタベタに塗り固められたような虚飾のパーティを抜け出し、複雑な混血の「桃色シャツ」との姦淫(解説のリービ英雄から)へ至るにあたって、虚無感が強くなり、アメリカにいることの浮遊感に浸るところなど、何と言うか、男性作家みたいな文体なのに、繊細に描かれてあり、非常に完成度の高い小説だと思う。
 言葉が足りなくてうまく表現できないけど、こういうのを傑作と呼ぶんだなというのは、直感で分かる。中上健次の岬を読んだ時のような感覚を覚えた。35年も前の作品なのに、今でも十分「センセーショナル」な魅力も持ち合わせている。

三匹の蟹 (講談社文芸文庫)

三匹の蟹 (講談社文芸文庫)