暗夜行路

 志賀直哉の暗夜行路を読み終わった。長かった。
 志賀直哉の私小説的色合いを持つ、彼唯一の長編小説で、主人公時任謙作がいくつかの困難に遭遇しながらも克服し(?)、いくらかの自分なりの納得を得るという話なのだが、何と言っても長い。そして退屈だ。この小説の扱っている自分の出生の秘密と妻の不倫という2つのテーマは、たくさんのショッキングなことに慣らされた今現在において、罪としての衝撃があまりなく、従ってこの小説が退屈なものに成り下がってしまっている。また、ほぼ謙作の目から語られる私小説の匂いのあるものであるので、物語の流れに謙作の性質が大きく反映されるのだが、はっきり言ってつまらない人間性なので…。
 ただ、この小説に価値がないといっているわけではない。何かしらの原罪めいたものを背負っている(人間は皆原罪を背負っているとする某宗教もある)人間にとって、この小説はひとつの道すじを提示してみせる。何かを創りだそうとしてなかなか叶わない人間の姿を描いてもいる。言ってみれば人間の生活なんてものは退屈なわけで、そういう意味ではより現実に近い小説なのかもしれない。何か、思い通りになっていないものを抱えている人間にとって、ラストである到達を見せてくれるこの小説は心の助けになるとも言えるかもしれない。
 尾道、京都、東京、山陰と何度も行ったことのある場所が舞台となっているのが、僕がこの小説を読む助けになった。

暗夜行路 (旺文社文庫 24-1)

暗夜行路 (旺文社文庫 24-1)