四万十川―あつよしの夏

 笹山久三の四万十川―あつよしの夏を読んだ。何か新しい感じを受けた。
 簡単に言ってしまえば、小学三年生の坊やのひと夏の成長を追った物語なので、古臭い、道徳の教科書めいたものかと思ってしまいがちだが、実は結構攻めの姿勢を感じる小説だ。舞台は四万十流域の小さなコミニティで、時代背景は明らかにされていない。ここがミソで、この小説は日本の現代社会の孕む問題について批判を隠さない。競争や勝負と言うものだけが人間世界じゃないんじゃないか、と社会の根底に疑問を投げかける。こんなちょっと突拍子も無いことが言われているのに、何かさらりと受け入れてしまうような雰囲気づくりに、四万十という舞台が役立っていることは言うまでもない。
 主人公篤義の置かれている状況説明をやたらと長ったらしい、説明的な文章で語ってしまうところが多々見られたが、これはこれで道徳以上の、わかりやすい言葉で語れない何かを描こうとしていると思えば納得できる。
 解説者が少年文学の名作の1つとして永山則夫の木橋を挙げているが、なにかしらの共通点を感じるような物語だった。

四万十川―あつよしの夏 (河出文庫―BUNGEI Collection)

四万十川―あつよしの夏 (河出文庫―BUNGEI Collection)