犬猫

 井口奈己監督の犬猫を見た。前半と後半で著しく印象の違う作品で少々戸惑った。
 ひょんなことから留学する友人の空き家を預かることになった、仲の悪い幼なじみのヨーコとスズの数日を切り取った作品なのだが、前半は、あくまでもドラマを拒否し、固定カメラの長回しだけで、ほとんど音楽も入ることなく物語は綴られ、「現実というのは印象に残る出来事の連続なんかでは決してなく、ほとんどが、つまらない、とるに足らぬ、すぐに忘れるほどの退屈で占められていて、その点においてこの作品はものすごくリアルである」と語りたくなるようなストーリーなのだが、ヨーコが思いを寄せる三鷹くんとスズが知り合った瞬間からガラっと変わる。今までの流れを踏襲せず、カメラが動く(と言っても作品全部で都合3回しか動かないのだが)。圧倒的にドラマになる。本当にガラっと変わるのだ。
 個人的にはこの変貌ぶりはお好みじゃなかった。前半の、自然にいいなあとかつぶやきながら微笑みつつ見れる雰囲気が好きだった。後半がどうあれ、この作品がリアルさを抱えていて、東京という場所の本当のものを切り取っていることが否定されるわけではない。へー、蓮實ってこういうのが好きなんだとちょっと驚いた。

犬猫 [DVD]

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