世界を肯定する哲学

 「世界」と「私」の関係性を、言語を手がかりとして少しでも明らかにしてみようという保坂の試みだが、成功を収めているのか失敗に終わっているのかは僕には判断できない。彼がしようとしているのは、小さな"のみ"でもって大きな岩を彫刻するようなことであり、かつ、極太サインペンで米粒に字を書こうとするようなことで、内に矛盾を孕むことなのだが、保坂はめげることなく、慎重に地道な作業を黙々と積み上げている。多少の齟齬があることは否定できないのだが、保坂のやり方に慣れている読者ならば、彼の思考を共に辿って、核心に迫ろうとする保坂にある程度ついて行くこともできるだろう。
 人の考え方を追いながら物思いに耽るのが好きな人でなければ全く面白みの無い本だと思う。人生って何だろうとか、なぜ生きているんだろうとか、死んだらどうなるんだろうとか、そんなこと(一言で言うと哲学か?)を考えるための一番基礎の部分を築こうという努力の痕跡と言えるだろうか。

世界を肯定する哲学 (ちくま新書)

世界を肯定する哲学 (ちくま新書)