博士の愛した数式

 久しぶりに一気に読める本だった。メルヘン世界を形作るに十分な数学への愛。読者の気を引くいびつな登場人物たち。そして、ちょっと変わった環境。抑制の効いた文体。合わせ技でいわゆる「いい」話ができあがっていて、伏線も張られているし、ものすごくオーソドックスな、さらっと読めてしまう小説でないかと思う。それがこの小説の強みでもあり弱みでもあるのではないだろうか。確かに一般受けしたし(こりゃマーケティングをちゃんとすれば売れるに決まってる)、映画化もされた。しかし、この小説には例えば妊娠カレンダーにあるような、小川洋子らしい、得体の知れない不気味さに欠ける。まあ。でもそれも含めてこの小説のよさなのかもしれない。
 とりあえず、文庫本については藤原正彦の解説はしょうもないので読まなくていい。国家の品格はどうなんだか知らないけど。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)