海を飛ぶ夢

 若いころに事故で首の骨を折ってしまい、四肢が不随になり、以後28年自殺することもできず、尊厳死を求めている男。彼の姿を追いながら、生きることの意味を考えてみる映画なのだが、なぜだろう、イマイチ入り込めずに傍観してしまったみたいだ。
 生きることが苦痛でしかないといい、カトリックの国スペインでは認められていない尊厳死を求めるラモン。そして、彼の力になりたいという、脳血管性痴呆を患っていて、足が不自由であったり、発作で記憶すら奪われる弁護士のフリア。ラモンの家族。ラモンを愛するロサ。ここらが主な登場人物。
 ラモンは生と死の間にボーダーを持たない。彼は生きているが、死を近しいものと感じているし、恐れていないし、死というものに最も近いところにいる。フリアも死というものに近いところにいるが、彼女は死と生の間に境界線を持っているし、彼女は境界線の生の側にいる。
 彼のような存在が身近にいたとしたら、どんな言葉をかけるだろうか。そのためには自分の立ち位置を決めなければならない。生きていることと死んでいることとの間に線引きをしているうちは、ラモンに近づくことはできないし、劇中ででてくる滑稽な神父のように論破され、すごすごと引き下がるだけだろう。尊厳死を支持する側支持しない側のどちらにも立たずにニュートラルな視点で見れるようにつくられた映画なので、そんなことをうだうだと考え続けている。
 アメナーバルの映画はたぶん始めてみるんだけど、ラモンの命を奪った海の美しさが目を見張る。
 けど、ふとしたところで挿入された犬の交尾というユーモアが一番印象に残っているような僕ではやっぱり傍観者から前に進めないのかな?

海を飛ぶ夢 [DVD]

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