ニンゲン合格

 14歳の時に事故で昏睡状態に陥り、10年後に奇跡的に目を覚ました豊。退院する時に医者から「大丈夫。失ったものはすぐ取り戻せる。」と言われたが、彼には"失ったもの"がなんなのかわからない。ただ、現実として、父親は新興宗教に走り、母親は別の家庭を持ち、妹は彼氏と生活していて、それぞれ10歳ずつ歳をとっていた。家には父親の大学時代の友人が住み着いているし、10年前の事故を起こした男からは恨まれているし、状況は変わっているものの、彼はまだ"失ったもの"がわからない。彼はまだ「14歳」のままなのだ。
 ただただ過ぎ去っていくだけの日々を過ごしながら、彼はたった一つ、一瞬だけでも家族が揃うことだけを願った。それは彼が死んだ後にかなう。
 この映画はファンタジーだ。多少現実味のない出来事が多いし、監督自身もそのことを意識してつくっていると思う。カメラの位置がやたら低いのはそういうことなんだろう。家庭崩壊や昏睡からの目覚め(=記憶喪失)といった設定はありふれている。それでもなお、この映画が観るに堪えるものになっているのは、主人公の豊があらゆることに無頓着で、日々をこなすように生きていて、過ぎてしまった過去を辿って、それが限界点を越えて決壊して、それでもなお生きようとして、目覚めたこの世界が夢でなく自分が確実に存在したことを確認しようとした、というそこが心をくすぐるからで、まあ悪くないと思う。
 まあ、面白いか面白くないかで言えばこの映画は面白くて、なにが?と言うと、何はなくとも「マジで」って言わせるセリフ回しであったり、今とあんまり変わらない哀川翔であったり(役所広司哀川翔がセットになると『うなぎ』を思い出す)、西島秀俊麻生久美子が若かったり、大杉漣が絶倫キャラじゃなくて狂人キャラだったりというところ。面白い映画って、やっぱり細部が小ネタばっかり。

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