イッツ・オンリー・トーク

 なんとも言い難い小説だった。
 表題作も後ろに収められている第七障害についても、さくさくとものすごい勢いで読みきることができたのだから、多少面白かったのであろう。ただ、それは逆にそれだけでしかなかったとも言える。橘優子と早坂順子という小説中の人間はさらりとおさらいができる程度の人生しか歩んでなかったということだ。
 どちらの女性も一部損なわれている。人間のシルエットとしてなにぶん足りないのだ。優子はそのかけらを求めてかは知らないが、誰とでもセックスする。曰く「お互いの距離を計りあって苦しいコミュニケーションをするより寝てしまう方が自然だし楽なのだ」。順子は愛する馬を故意にではないとはいえ、直接に殺してしまったがため、全ての歯車が狂ってしまっている。
 でも、人間は誰だって欠けているし、誰の人生だって薄っぺらなんだろうな。そういう意味で真理をついているのかもしれない。

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)