その街の今は

 やはり柴崎友香の小説は彼女にしか書けないなという当たり前のことを、考えたりしながら読み進めていった。この小説は柴崎友香が書いた小説に他ならず、独特の面白さと世界を持っている。
 しかしながら、今までに読んできた彼女の作品に比べて何かが足りない気がした。これまでの(と言っても全部読んでいるわけではないのだけれど)彼女の作品で描かれるささやかな恋心は、もっと中性的というか、距離を置かれて描かれていたと思うのだが、本作では、ステレオタイプとしての女性の恋愛といったようなものを取り入れてというか、ちょっと濃い匂いを持っていて、なんか嫌だった。
 彼女の小説はいつも大阪の街というものにかなりの重点を置いて書かれているけれども、この作品では特に大阪という土地が強く取り入れられているし、さらに、その場所を時間軸的にも捉えていて、立体感があふれるというか、考え、感じながら読まされた。
 主人公が何か言葉を受けて、言葉を返す際にほんの一瞬で彼女の精神が辿る道筋を生々しく描かれていて、実際はその書かれた文字を追う時間の何百分の一の内に終わってしまうことなので、時間的には再現できていないけれども、それ以外の点で、本当に本物っぽいなといつものことながら、感心してしまう。

その街の今は

その街の今は