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百鬼園随筆

 内田百輭百鬼園随筆を読み始めたばかりなのだけど、これが面白い。百輭は生前、本などを読むときは内容を読んでいるのではなくて、文体であるとか、そういうテクスチャーの部分を読んでいるのだ、というようなことを言っていたようだが、なるほど心地よいぬるま湯のような文体で、いいなと思いつつ、納得していたのだが、ちょっと間違いだった。内容が面白い。まだ読み始めたばかりなので、これからもっと面白いのが出てくると期待しているのだけれど、冒頭の方にある「髭」という短編随筆で、百輭が急に髭を剃り落としたら、その顔の変化で、陸軍学校の学生たちがこらえきれずに笑い出す描写

私が気がついて、その気配をうかがって見ると、彼らは硬直した一団となって、その塊りが、何となく膨れあがって来るらしい。変だなと思う途端に、前列の端にいた一人が、顔を真赤にして、目玉が飛び出しそうに力み返ったまま、固く結んだ口の一端から、激しい息を洩らして、ぷうと云った。すると、講堂の中が一時にざわめいて、方方でぷうぷうと吹き出す声がして、今までの静寂が乱れてしまった。

先日の陸上じゃないけれど、我慢していたものが転がりだす瞬間、緊張が解き放たれて動き出す瞬間がよく描写されてて、興味深いし、ただ単純にも面白い。非常に頑固偏屈かつ我侭で無愛想な人物として知られ*1という割にはお茶目だ。写真の顔もかなり怖いくせに。この随筆は70歳以降に書かれているみたいだが、この人は間違いなく子供だ。何か親近感すらわく着眼点と語り口がたまらない。川上弘美が好きなのもうなずける。
 余談だけど、この下の新潮文庫の表紙絵は芥川龍之介が描いたものらしいけど、妙にへんちくりんな絵で面白い。こんな絵描く人なら自殺しなそうな感じなんだけどねえ。

百鬼園随筆 (新潮文庫)

百鬼園随筆 (新潮文庫)

*1:wikipediaよりhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%B0%E7%99%BE%E9%96%93