奇跡の海

 ラース・フォン・トリアーの映画はいつ観てもいやな気持ちになる。善意の悪用と負のスパイラルを物語に仕立てる才能は褒めるしかないのだけれど、こいつとは出会っても絶対に仲良くならないだろう。いや、逆になるのかもしれないけど。
 "ファニーとアレクサンデル"とも共通するのだけど、つまりベルイマンとトリアーとが共通して持っているのだと思うのだけど、一神教を信じることによる「絶対」というものへの懐疑と自己犠牲への嫌悪が見られる。自己犠牲というのはそもそも、自分が耐えることで見返りを期待してするわけで、見返りがなければ誰一人得をしない最悪な選択となるわけだ。で、ラース・フォン・トリアーはそういうのが大好きなので(なんだろう。そういうことに異常にリアリティを感じてしまう人なんだろうか?)、彼の映画はそうなると。言いたいことが言えないこと限りない。
 この映画は今まで観たラース・フォン・トリアー監督映画では最もハッピーだ。この物語で比較的ハッピーと言わなければいけないところが、やつのすごいところだと思うが。一応真っ暗で断末魔で終わったり、車に乗ってムラを見下してみたりはしない。最後に2つの奇跡が用意される。ただし、この奇跡は何の意味があるのだ?映画として見るべきものがあると認めよう。ただし、許しがたい。許しえる/許しがたい、その基準はというベスにも似た自問自答を繰り返せば徒労が待っている。
 いいんだ。いいんだけど、考えさせられるのだけど、このいやな気持ちになることは必要なのだろうか?できることならいつもにこにこして生きていきたいんだけど。

奇跡の海 [DVD]

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