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サマーバケーションEP

小説

 古川日出男のサマーバケーションEP。非常によかった。心震えた。
 私もご多分に洩れず、Lifeの2007年文化系大忘年会の回で激しく薦められていたので、購入した。最近は小説読みなれてないので読了に1ヶ月かかったが、よかった。読み始めた頃から、いい小説だというのはびんびんに感じていたが、読了して、その感覚は間違いではなかったと言える。
 一人一人の人間の顔に区別がつけられない青年(私が黒人の顔を一人一人区別するのが苦手だったり、一匹一匹の犬や猫、アヒルの顔を区別できないのと同じように)が、ひょんなことから、過労でぶっ倒れて休みを取ってるリーマンと、リストカット跡のあるお姉さんと、その他の人々と、井の頭公園から始まり、東京湾に注ぐ神田川を、歩いて海まで行くという物語で、ドラマとか、そういったものではない。つまり、人間の顔の区別がつかないとか、リストカットであるとかというのは、登場人物たちのただの現実であり、それをどうこうしないというのは虹ヶ丘ホログラフと同じで、それが世界のあり方だと思う。
 私がこの小説ですばらしいと思ったのは、この物語が善意に満ちているということと、川が井戸のように湧き出て、川幅を広げ、海に注ぐというモチーフを借りながら、コミュニケーションのダイナミックさが描かれているところで、素直に感動してしまった。こういう小さな善意と小さな行動の積み重ねによってのみ、私の生活は幸せになっていくのだと思う。なぜか、武者小路実篤の「ますますかしこく」の行が思い出された。
 みんなこれ読んで泣こうぜ。

サマーバケーションEP

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