ニシノユキヒコの恋と冒険

 川上弘美のニシノユキヒコの恋と冒険。
 10の短編のうちの10番目を読んでいる途中で、村上春樹の小説に出てきそうな登場人物だなと、遅ればせながらニシノユキヒコについて思った。そんな感じ。
 時系列については、いくつか入れ替えられているものの、ニシノユキヒコの小学校時代から死後までが、その恋の相手の言葉で綴られている。ニシノユキヒコ以外には、多少の薄い例外を除いて、男性登場人物が出てこない。存在感すら薄い。
 というよりも、ニシノユキヒコ自身の描写の奥行きもない。彼は、「女の子」の望みのタイミングで、望みの言葉や行動を、心地よい温度で差し出すことができる。「女の子」の心にするりと入り込んでしまえるらしい(想像もつかないのだけれど)。ニシノユキヒコという存在はニシノユキヒコという個体ではなく、「女の子」を映した鏡のようなものでしょう、つまり。
 感想を言うと、大変おもしろく読んだ。上記の、“ニシノユキヒコ≒村上春樹の小説の登場人物”に最後の方まで気づかないくらいに、のめり込んで読んだ。感性の違う人の、クオリティの高いこなれた文章を読むことは、いつも楽しい。

ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)


P.S.これ、桐島、部活やめるってよでもあったんだなあと