また会う日まで

 柴崎友香のまた会う日まで。今はもうどうにもこうにも、柴崎友香の小説は読まずにはいられない。
 こう書くと語弊があるのだけど、柴崎友香の小説世界では、まず「何も起こらない」。というのは、もちろん小説なわけで主人公の周辺で起こったことについて書かれるのだけど、それは我々が普段の生活で「今日は何もなかった」と表現するレベルのことが主に描かれるという意味である。例えば、今日は誰々に会って、何々について愚痴をこぼした、仕事に行く途中で空を見上げたら飛行機雲がきれいだったというような。何の変哲もない、いわゆる日常というやつが描かれるのだけど、彼女の本は(少なくとも個人的には)面白い。それは、かけがえのないものが捉えられて、書かれているからだと思う。私の漫然と過ごした一日にも、実は電車で向かいにいたあの人の顔おもしろいとか、この角度で見ると見慣れた街でも違った良さが見えるなとか、そういういつもと違った感情を持つという出来事はあるわけなんだけど、それは圧倒的なスピードで忘れ去られ、その日は、一日の終わりにおいて「あー今日もつまらなかった」という感想で締めくくられる。私が柴崎友香の小説を読んでいて、ものすごく感心するというか、とてもありがたい気持ちになるのは、この一見些細な、でも、(たとえわずかだとしても)心動かされた経験を思い出させてくれる、もしくはその時の心の動きを再現してくれるからで、しかも波のようにいくつも思い出されるのでものすごい幸福感に包まれる。これはなんなんだろう。いやもう本当にこの拙文では表現できていない満足感があるので、早く新作を書いてくれとそういう思いでいっぱいです。

また会う日まで

また会う日まで