明日の記憶

 試写会に行ってきた。
 渡辺謙が原作を読んで映画化したいと思い、自らエグゼクティブ・プロデューサーという形で制作にかかわった作品。渡辺謙の意気込みは十分に感じる。
 広告代理店で働く佐伯はもうすぐ50歳。これまでにない大きな仕事を決め、娘は妊娠し、もうすぐ結婚で順風満帆な人生。ところが彼は若年性アルツハイマー病を発病した、というお話。プロット自体は映画の歴史の中で何度でも出てきたであろうものだが、この映画は一味(いや、二味、三味かな)違う。佐伯の感覚を疑似体験させるかのような映像と効果音の場面や、思い出の神秘的な山奥へと導かれていく場面があるのだが、なんせ監督は堤幸彦、明らかにTRICKです(笑)どうひいき目に見ても感動のヒューマンドラマの画ではありません。カルトかホラーかというような。。。
 いや、もちろんいいんですよ。それがこの作品にとって+に作用し、かつてない傑作になっているのであれば。いやーでも僕のセンスで照らしてみると完全にミスでした。
 思えば最初からオープニングのスタッフロールで「んえ゛っ?」というようなCGが使われていたし、最初の場面の夕日がやたら変な色で、しかもそこからUFOみたいなカメラの動きをしたりと監督の作家性の誇示があったなあと作品を観ている途中で回想してしまった。
 映画としてのデキは正直イマイチだと思うんだけども、この映画はしっかり泣けるようにできている。誰しもが佐伯のように病気と向き合うことになる可能性は十分にあるし、枝実子のように愛する人が病気と向き合うことになる可能性は十分にあるし、また向き合う相手は病気でなくても、何かしらの好まざるもの全てに置き換えられるから、誰しもが共感でき、感情移入ができる。そして、この映画が性善説に基づいてつくられた、悪人のいないファンタジーだというのがすごく救いになっているんだと思う。いや、特別出演の木梨憲武だけひどい役だった(笑)あと、高樹マリアがチョイ役で出てるのもなんとも。。。

 まあ映画はその程度だったけど、渡辺謙その人はなかなか魅力的な男だった。こういう人間が周りの人間を動かすんだろうなと思った。
 試写に引き続いて行われたティーチインで、彼は自らの思いが溢れてとめどなく流れていくように、学生たちの質問に雄弁に答えた。時に熱っぽく、時にちょっと考え込んで。彼の薄い皮の下には、他人に伝えたいこと、コミュニケーションをとりたいという思いでいっぱいだというのが直接会話せずとも伝わってきた。こういうのがオーラなんだろうな。とりあえず、あいつはすげえ。映画の2時間強よりも、渡辺謙と会ったこの30分程度の方が圧倒的に濃かった。試写会に行ってよかったと思った。
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