函館珈琲

 西尾孔志監督の函館珈琲。ユーロスペースで。

 回復の物語。書けなくなった小説家の再生の物語。駆け出しの職人・アーティストが軒を連ねる翡翠館というユートピアでの、我が子を捨てたガラス職人・かつていじめられていたテディベア職人・対人恐怖症(?)のピンホールカメラ写真家との交流を通じた、小説家が自分を取り戻すまでの物語。

 個人的には函館はラッキーピエロハセガワストアの街なので、ラッキーピエロがチョイだし、ハセガワストアが映らないようでは、函館である必然性が伝わってこなかった。

 片岡礼子を久し振りに観たということ、Azumiって人の魅力に触れたこと、そういう細部には心ひかれる部分があったものの、トータルの映画としてはおもしろくはなかった。

- 椅子は海辺で見つかってからの伏線回収は??

- 対人恐怖症になった経緯は??

- 子どもの名前と藍・青へのこだわりって安易に過ぎないか??

- books & coffeeって何かの結論になりうるの??

- 英二の新作はどうなったの??

などなど気になって乗れない脚本だった。

 

www.hakodatecoffee.com

 

p.s.いいから早くソウル・フラワー・トレインをDVD化してほしい。

アニッシュ・カプーア個展

 SCAI THE BATHHOUSEに行き、アニッシュ・カプーア展。

 これは素晴らしかった。この作家を意識したことはこれまでなかったのだけど、たぶん今までに金沢などで作品は見てきたはず。

 最も心を奪われたのは最も手前に展示してあった、串を抜いた団子みたいな形をしたSUS?の球みたいなオブジェ。外も内も鏡面仕上げをしてあるので、外も内もその表面全てで鏡のように展示室や自分自身が映る。エッジも繊細に鋭く鏡面仕上げをされているので、内側はおそらく独立した3つの曲面で構成されているはずなのだけど、その曲面と曲面の間の境界も繊細に鋭く鏡面仕上げをされているので、目を凝らしてみてもどこに境界があるのか判別できない。自分の視覚がおかしくなったかのような体験をすることができた。

 次に心奪われたのは、これも鏡面仕上げのSUSの球が展示室の隅っこの壁と壁のL字部分に埋め込まれたようなオブジェ。一目見たときには上記のようなシルエット(壁とオブジェの境界)を認識するのだけど、徐々に近寄って見てみると鏡面仕上げの金属球ではあり得ない反射をしていることに気づき、オブジェ至近まで近寄ると実は2つオブジェの集合でできていることに気づく。上のオブジェと同様に、2つのオブジェは寸分の狂いなく接着されており(表面の色から判断するに溶接されている)、またエッジまで繊細に鏡面仕上げされているために一見2つのオブジェで構成されていることに気づかない。従って、オブジェに近寄っていった時に自分の視覚が揺らぐ経験をすることができる。

 その他、極限までなめらかに傾斜をつけられたグラデーション塗装(黒to灰)がなされた円盤であるとか、黒に薄く塗装された(おそらく)放物線鏡面による天地左右逆転鏡など、視覚を揺さぶる作品と、さらに習作なのかペインティングや模型が展示されていた。

 上述のように、2つの金属製オブジェは私の好奇心を極めて刺激してくれた。

www.scaithebathhouse.com

恋愛とは

 個人的に考えていることとして、恋愛というのは、生殖を目的としたプロセスとしてのゲームではないかと、そう考えている。
 君の名は。を称して、東浩紀


のように語っていたけど、そういうことを、もうちょっと冷ややかに見ている。

君の名は

 新海誠君の名は。劇場で。観ようとした回が中高生ぐらいで劇場が満たされるくらいの混雑だったんだけど、課外授業ですか?
 脚本が幼い。それが観終わった第一印象。いや泣けるんですよ、RADWIMPSガンガンにかけてくるし、堤幸彦を超えるレベルで情景大回転させてくれるんで。*1
 でもさ、1分1秒が貴重でない、何度でも黄昏時に訪れることのできる瀧くんは大事な目的忘れていちゃついてりゃいいんですけど、今の1分1秒でセカイの破滅を担っている三葉が、同級生を犯罪者にしたり面倒ごとに巻き込んでおいてたらたらしてんじゃねーよボケって話ですよ。
 んでタイトルにもなる大事な大事な君の名を忘れないようにお互いに手のひらに書こうって時に、時間切れで書ききれなかった三葉はしょうがないものの、瀧くんはどれくらい知能指数が低いのか、名前じゃなくて書いたのが「すきだ」じゃねーよボケって話でしょ!?
 最も重要な、最も緊張感を高めて高めておいての、この弛緩しきった脚本、これはびっくりして、正直笑いました。脚本は合作にしたほうがいいと思います、新海監督。
 劇場で観る価値のある劇映画ではあったものの、そこが不満。
 冒頭の実写かと見まがうような異様に精細なアニメと、確かに実写では不可能なカメラワークには心奪われました。でも、ン十年生きてきて、汚れきった私には、あの最も重要なシークエンスでの脚本のクズっぷりには耐えられませんでした。
 繰り返しますが、劇場で観る価値はあるというのが私の意見です。
www.kiminona.com

*1:まじめな話堤幸彦があの作風変えないならCGかアニメに行ったほうがカメラの取り回し困らなくていいんじゃないかしら

あいちトリエンナーレ名古屋地区

 岡崎・豊橋はこの前行ったので、今回はあいちトリエンナーレ名古屋地区へ。名古屋市美術館以外の愛知県美術館・栄会場・長者町会場を訪れた。
 愛知県美術館、10F入口にパンフの表紙にもなっているジェリー・グレッツィンガーの想像上の都市の地図が展示されている。大きさには心動かされるものがあるものの、作りこみであったり親しみであったりは空想地図(タモリ倶楽部にも1度取り上げられた)のほうが質が高いと感じた。

みんなの空想地図

みんなの空想地図

 最も気に入ったのは、クリス・ワトソンの作品。各地の波の音に耳を傾け、海でつながった世界に思いをはせる時間はなかなかに優雅なものだった。
 栄会場・長者町会場は全体として小粒な作品が多く、あまり興味をひかなかった。15分入れ替え制で鑑賞できる、損ジャ名古屋ビルの大巻伸嗣の作品は、強制的に15分を奪われ眠気を誘うものの、これもまたこういう美術展ならではの楽しみと思った。
あいちトリエンナーレ2016

しろいろの街の、その骨の体温の

 村田沙耶香の“しろいろの街の、その骨の体温の”。

  女子中学生が、言葉と、そして言葉で表現しきれないものと、を知る話。

 解説で西加奈子が書いているように、作家の言葉や世界に対する誠実さが滲み出ている。

 

あいちトリエンナーレ

 あいちトリエンナーレの岡崎地区・豊橋地区をぶらついた(名古屋は今度にした)。
 こんなことでもなければ、岡崎や豊橋をわざわざ訪れ、歩き回ることはなかっただろう。
 実際に街に住む住人が諸手を挙げて参加をしているかというと、そうではないが、かつての横浜トリエンナーレくらいの勢いは感じた。
あいちトリエンナーレ2016

ヤンヤン 夏の想い出

 エドワード・ヤンヤンヤン。DVDで。

 こんなに奥行きがある映画だった記憶がなく、3時間の豊かな映画体験を楽しめた。結婚式に始まり、葬式に終わる。映し出される画面の構図も垂直と水平が多く、かっちりした印象を強く持った。

 仕事の先行きが怪しくなり、かつての恋人との再会に揺れる父、NJ。繰り返す日々に行き詰まりを覚え、宗教に救いを求める母、ミンミン。まじめであるがゆえに、自責の念に囚われ、また恋に悩む姉ティンティン。体が小さく同級生の女の子にからかわれ、また素直であるがゆえに大人と多少の軋轢を抱える弟ヤンヤン。この4人の家族を中心とした群像劇。イッセー尾形演じる大田が悟ったような言葉と共に、NJに示唆を与えるのだけど、それは観客にも届く。

 歳を重ね、経験が増えていくにつれて、映画におけるフックにたくさんかかり、より深く楽しめるそういう作りになっていると思う。

 8年ぶりに観たようだけど、我ながらいいシーンの記憶を持っていた。

父親ウィラポンみたいな顔、ヤンヤンが女の子に対して抱くまだ形を持たない感情、シェリーが泣くホテルの窓に反射する東京タワー、イッセー尾形演じる大田と父親との何にも担保されていないのに厚い信頼、姉ティンティンがときめきながら着たドレス姿

creep.hatenadiary.jp

ヤンヤン 夏の想い出 [DVD]

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