自動起床装置

 JR東日本が自動起床装置「おこし太郎」を一般発売するというニュースを見て、この小説を思い出し、再読してみた。
 通信社の仮眠室の「起こし屋」であるぼくの視点を通して、「眠り」というものを軽視している現代の批評をしてみた小説である。起こし屋をしているぼくと聡は仮眠室の社員たちを言われた時間に起こすのが仕事である。そこに自動起床装置の導入が発表される。聡はそれを睡眠の軽視だと憤る。
 作者は明確な答えを提示しない。眠りは人知から離れた神秘的なものだと考える聡と、睡眠に対して特に自分の考えを持たないぼくとを登場させ、彼らに小説中で語らせ、読者に思考を促す(まあ、どう考えても作者は聡に自分の考えを投影させているが)。その助けとして、文中では擬音語を巧みに用いて、仮眠室の無機質さ、聡や社員たちの生々しさを描写し、読者への情報を書いている。
 ぼくと自分を持っている年上の存在を中心人物として書いてある小説なので、池澤夏樹の「スティル・ライフ」を思い出した。辺見はこの形式を借りたのかもしれない。

自動起床装置 (文春文庫)

自動起床装置 (文春文庫)