殺人に関する短いフィルム

 この映画は闇ばかりだ。題名然り、映像然り、そして登場人物たちの心然り。全編にわたって荒れた画面であり、さらにピンスポットのように一点を中心とする画面の一部のみに光が当てられていて、そこは様子が判別できるのだが、そこから離れるにつれて画面は闇に支配されている。不適な笑みと悲しげな表情とを交互に見せる青年、悪意に満ち満ちているタクシー運転手。資格を取ったばかりの新米弁護士。何1つ接点のなかった3人の人生が偶然(虚構における偶然を装った必然)に絡み合う。2つの殺人が過剰に克明に描かれる。
 この映画で唯一、スクリーンに影を写し撮ろうとしたのでなく、光を照らそうとする意図が見られたのは最後のシークエンスだけなのだが、内容としては決して明るい希望といった類のものではない。痛く苦しいものだが、美しいショットだった。

殺人に関する短いフィルム [DVD]

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