ユリイカ

 小説「ユリイカ」を読み終わった。
 映画「ユリイカ」も見たことがあるのだが、だいぶ昔のことなので、内容をほとんど覚えていなくて、さらの状態から読んだと言ってもいいだろう。
 この物語は動機のない殺人事件によって心に傷を負った3人の再生の物語である。事件によって、流されるように「ただ」生きることができなくなり、生と死と向かいあって生きていかざるを得なくなった3人が生きる意味を問いながら移動生活をし、そして彼らなりの答えを出す、そんな物語だ。己の過去を呪い、しかし逃げきることもできず、自らを殺すこともできず、なぜ自分たち3人だけが生き残ったのだろうかと答えを捜す。軽率に言ってしまえば3人がトラウマに打ち勝つ様子を書いた小説である。これはそのまま読者にも己の生きる意味を問わせる。日ごろ、そのような難しい(一生答えなんて出ないかもしれない)問いから逃げている僕のような人間も考えてみる。やはり、答えなんて出ない。
 文章としてはすごく視覚的というか映画的(?)なもので、場面が切り替わるさまは映画のカットが切り替わるさまに瓜二つだった。映画監督なんだから当たり前といえば当たり前か。僕は阿部和重よりも映画的だと感じた。
 また、3人のうちの一人、沢井が「土」に向かいあい、肉体労働に勤しむさまの描写は中上健次の小説を思わせ、多分オマージュであろう。
 また映画「ユリイカ」を見たいと思わせる出来だった。これが処女作なのだからこれからに期待したい。

ユリイカ (角川文庫)

ユリイカ (角川文庫)