ファイブ・イージー・ピーセス

 まだ、男は昼間は汗水たらして働いて、夜は誰か適当な女を抱いていればよかった時代の物語だが、腐って、病んでいる、スクリーンの中の光景は妙にリアルで、昔話以上の何かを感じさせられる。
 誰しもが壊れていて、その多くはそのことに気づいていない。そんな過剰な人間しか出てこないこの映画を観ていて、実際の世界も、このスクリーンの中の虚構とそう変わらないんじゃないか、同じなんじゃないか、と思ってしまった自分がいる。
 最後のシーンは、まさに必要にして十分であり、この最後の1シーンを見るためにこの映画を観てきたのだと感じた。今にしてみればタイミングよく丸太トレーラーが入ってきた時点でものすごい作為的なものを感じてしまうのだが、実際に作品を観ている時は、ずっとそういうものというか、それを求めていたので、予定調和というよりは、あるべき姿に落ち着いたという印象が強い。残念ながら作家の思い通りに、観客は満足感を得てしまうだろう。それまでに不満を溜めきっているから。