キッドナップ・ツアー

 角田光代のキッドナップ・ツアーを読んだ。
 夏休みの第一日目、私はユウカイされた。という一文から始まるこの小説は、小学生の語彙で、しかも漢字にはルビまで振って書かれている。話の進め方は、引っかかることなくスムーズにいく。前に読んだまどろむ夜のUFOが、その解説でも書かれているように抽象的で、角田光代はこういう文章を書くのかと思っていたので、ちょっと拍子抜けしたくらいだった。夏休みの読書感想文の課題図書に指定されそうな本だ。
 でも、内容も子ども(だけ)向きかというとそうでもない。大人でも読める。むしろ、子どもよりも、かつて子どもであった大人たちの方が、ノスタルジーを感じながら読みやすいんじゃないかとすら思った。
 この小説に描かれているのは、親と子、にとどまらず、1人の人間ともう1人の人間との距離感だと思う。主人公ハルは他人との間に、本人は意識してないものの、結構大きな距離を感じている。それを、父親によるユウカイ=非日常を通じて確認するという物語という風に僕は解釈した。無意識的に遠い存在であった「おとうさん」との距離が変わっていく。それはもちろん、文中で「まるで、薄い皮一枚を残して、中身を全部入れかえてしまったみたい」と書かれているように、自分の変化、特にガラスに映る自分を見ているハルの視点の変化によるもので、成長と言えるだろう。心の成長に伴い、父親以外の、母親、その姉妹との関係ももちろん変わっていく。子どもに読める物語にしようとする意図が感じられるくらい、丁寧に描いてある部分がほとんどだが、父親との心の距離の変化が飛躍しているとこがあると思う。もう少し丁寧に描いてほしかったと、勝手なことを思う。
 でも、読みやすく(当然?)てまあまあいいと思う。

キッドナップ・ツアー (新潮文庫)

キッドナップ・ツアー (新潮文庫)