横道世之介

 初日だったんですね。劇場で観ました。2時間40分の長編ですが、びびったほどではなく、すんなりと楽しめました。ただし、この地域で2館しか上映していないはずなのに、16:15の回が渡し含めて観客5人だったんですが、大丈夫でしょうか?

 上記の通り、2時間40分というその現実にかなり怯えて観始めたのだが、最初の30分が辛かった。世之介の上京から法政大学入学、倉持と阿久津唯との出会い、ラテンアメリカ研究会の様子が描かれるのだけど、世之介の「え?」に象徴される常識はずれした感じとうっとうしさ、倉持のからみづらさに圧倒されて、観客として物語世界に入ることができず、スクリーンで隔てられた「こちら側」の世界にいて「向こう側」で起きる出来事を「眺めて」眺めている感じだった。

 それが、綾野剛演じる加藤と吉高由里子演じる与謝野祥子の登場で大きく変わった。最初、加藤は初対面から距離をぐいぐい詰めてくる世之介にいい印象は持っておらず、自動車教習所に友人を誘うとお金がもらえるという理由での、半ば打算的な出会いであり、与謝野祥子とはその教習所で出会うわけだが、この2人が圧倒的に共感できる存在であったり、魅力的であったり、この2人にこの映画は支えられていると、観終わった今は確信している。

 加藤が夜の公園に散歩をし、世之介がスイカにかぶりつきながらついて行くエピソードが心を打った。この物語で初めて世之介と心が通じた瞬間だった。

 与謝野祥子がアメリカンなレストランで世之介と2人席で巨大ハンバーガーを前に大笑いを繰り返すところ、これは私には大変チャーミングだった。

 吉高由里子と「お嬢様」って妥当な配役なんだろうかとか、劇中で降り積もった雪が全く雪の質感を持っていないとか、ツッコミどころはあるのだけど、2時間40分を費やしても悪くなかったと思わせる、そういう映画でした。

http://yonosuke-movie.com/

 登場人物たちが、世之介を回想するくだりがそれぞれ挿入されるのだけど、これもやはり綾野剛の回想のくだりは魅力的だった。作り手としてはおそらく、「死んだときに思い出されたい(泣かれるか笑われるかは知らん)」と観客に思わせたいんだろうけども、それには共感できなかった。きっと私がレアな側だとは思うが。