高田冬彦『Cut Pieces』

 WAITINGROOMにて高田冬彦の個展『Cut Pieces』
 いずれも性的に眼差した男性を表現されるオブジェクトとした作品(性的に眼差すのは作家と観客)。私の性的嗜好からすると特に面白くはないはずなのだが、考えさせられた。

  • 世に流通するあまたの女性を性的に眼差し、各種男性の性的嗜好に対応するコンテンツに対して、それを裏返して客観的に見るようなしぐさ。
  • 真善美でいう美の領域であり、現代社会では正しくないこととされる他人を性的に見つめるしぐさについて、男女の非対称性に思いを馳せずにはいられない。

こんなところをぼんやりと考えた(と思う)。
 一番奥の部屋にアイデアノートが2つ(だったかな)展示されていて、絵コンテ的なものを観ることができた。これはこれで高田冬彦のプロセスが覗けて面白かった。
 なお、オノ・ヨーコがreferenceだということは解説を読んで知りました。
 観たその日は結構思ったところがあったのだけど(ポジティブな意味で)、このエントリを書くまでに結構忘れてしまった。
waitingroom.jp

すべて忘れてしまうから

 岨手監督、沖田修一監督の名に惹かれて、すべて忘れてしまうから。ディズニープラスで。
 フィルム調の画作りで、物語の展開も豪華な俳優陣も毎回の音楽もすべて楽しめたけど、原作が大したものじゃないんじゃないかな、と。岨手さんはなぜこの原作でやろうと思ったのかな?岨手さんが選んだわけじゃないのかな?
disneyplus.disney.co.jp

大規模言語モデルは新たな知能か

 PFN岡野原さんの大規模言語モデルは新たな知能か。
 経緯や基礎知識がそんなにない人にも届くように書かれたLLMのインパクトと可能性にも触れた本。さらっと読めて、引っかかるところはNN等の仕組みのところの開設のところくらい。
 p.92からのニューラルネットワークの説明は、この内容を別で勉強したことがなければわからんだろうな。

君たちはどう生きるか

 言わずと知れた宮崎駿原作・脚本・監督、君たちはどう生きるか。渋谷TOHOシネマズにて。
 いろいろと言いたくなることが沸き上がってきては小休止して、良いとも悪いともその良し悪しの判断が下せないのだけど、すごい映画であった、とは言える。
 久しぶりに、上映中にスマートフォンを触ってしまう若い衆を見て、普段どれだけ世間と隔絶しているのかと思わされた。

失敗の本質

 失敗の本質。文庫にて。
 毎年8月になるとNHKのドキュメンタリーで「戦争」を取り扱ったものがたくさん放送されるものの、気乗りせず、ほとんど見てこなかった。本書は名著として称されること多く、取っ掛かりとしてもよいかなと手に取った。読んでよかった。

わずか6つの作戦についてのみ取り上げ、戦略・戦術面のみからの失敗について掘り下げて議論するものであり、

  • Wikipediaよりも記載は簡潔(Wikipediaの記事がこんなに長いとは)
  • だいたいドキュメンタリー等を観ていると、一人一人に光を当て、数ではないという議論がなされるが、本書は数や流体として扱うことにより見える全体像を描くことに集中している

ことで、ある程度感情移入を抑制されることもあり、事実を追う点で役立った。
 ノモンハン事件は、まあ、こんなものかなと読んだが、読み進めるとガダルカナル以降、あまりに非道く、悪化していくので辛いものが増していった。
 ETV特集澤地久枝によるミッドウェー海戦の調査をドキュメンタリー番組化したものがおりしも放送され、番組の内容を理解する上での足場となった。

掃除婦のための手引書

 ルシア・ベルリン著、岸本佐知子翻訳の掃除婦のための手引書。文庫で。
 読んでも頭に入ってこない時もあって、結構時間をかけて読んでしまった。確かに手触りみたいなものが他と違って残るところがある。
 印象に残ったのはところどころあるが、「いいと悪い」で、ドーソン先生と心が通い始めてからが良い。また、「沈黙」を読んでいる時、ふとした時に自分では言語化できない魅力に掴まれる瞬間を覚えている。

ちょっと思い出しただけ

 松居大悟監督、ちょっと思い出しただけ。時間ができたのでNetflixにて。
 描かれる世界は狭いので、批評的には成功しないだろうなという感想なのだけど、よくできているし、作家として恥じらいは百も承知でさらけ出してきたセンチメンタリズム全開で、嫌いになれない。むしろ好き。
 Covid-19的なものも避けずにちゃんと描かれていて、それも好感が持てる。Covid-19によって(少なくとも一部では)失われたものとしての、伊藤沙莉と屋敷との会話、よく描けていて、翻ってこういう会話久しくしてないなと身につまされた。
 カレンダーがスクリーンに映し出された時点で勘が働いて覚えておくとならないところが、私はもう映画の文法から離れて久しいんだなとそれも感傷的な思いにも至りました。

暇と退屈の倫理学

 國分功一郎著、暇と退屈の倫理学。文庫で。途中中断を含んで1年くらいかけて読んだのか。
 尊敬の念を持ちながら、過去の偉人たちの考察を批判的に論じる様を並走して読むことになる。偉人たちの議論の破綻と各種引用を繋いでいき、論を進める様は鮮やか。
 読み進めると消費と浪費を比較することになるのだけども、自分がいかに消費社会の論理に飼い慣らされているかと、自分がいかに考察していないかを思い知らされるのでした。
 年を重ねたからか、哲学史・思想史の面白さに目覚めつつあり、(読み進めるのに苦労して途中中断したものの、)読んでよかったな、と思う。