批評の教室

 北村紗衣著、批評の教室。
 「ヒョーロン家」というのは創作にタダ乗りする浅ましい存在として揶揄の対象であったし、現在もその流れをくむ批評に対する斜に構えた考え方は世を席捲していると感じる。かつては私も「ヒョーロン家」(口頭なので音であるが)という表現を用いたことがあると思う。
 現実も虚構も(作品についてはよくできた作品に限るわけだが)、多面的で複層的であり、解釈の仕方はさまざまに存在し、それは現実の当事者や虚構の作家がすべてを理解しているわけでも制御できているわけでもないと、今現在は感じている。つまり、現実や虚構は想定されているよりも豊かであると確信している。
 批評はその点で必要なものであり、本書はその入口として、批評の外側にいる人々を批評の側に連れてきて、世界を豊かにする一歩、的な位置付けに感じた。
 よく整理されて大学院生とのやり取りの章も含めて楽しく読んだが、それは私が批評を仕事にしない初心者であるから、という論には同意する。初心者に向けて書かれたことは明らかな本であり、この本で飽き足らないと感じたら、先に進めばよいのではなかろうか。