夜明けのすべて

 三宅唱監督、夜明けのすべて。Prime Videoで。しみじみ良かった。
 老化に伴い、まあちょこちょこと不調は出るものの、「普通」に暮らしていることの恵まれている具合を思い知る。ここまで現実は優しいのだろうか?と心の片隅で思ってはしまうが、あるべき世界の寓話として受け取った。
 状況はシリアスだし冒頭からしばらくは暗い画面でつっけんどんなやり取りを観たりと辛い気持ちを高めさせられる。突拍子もなく始まった散髪で、爆笑した。素晴らしいの一言。散髪シークエンスから洗車シークエンスのくだり、素晴らしくて胸いっぱいになった。
 個人的には、にこにこしている光石研は裏がありそうで怖いのだけど、本作では好々爺的な春の光のような存在だった。
 フィルム調の画は、、、いいのか悪いのか。
夜明けのすべて

スロウトレイン

 TBS新春スペシャルドラマ、野木亜紀子脚本、土井裕泰演出、スロウトレイン。正月のお茶の間向けのみんなで観るドラマとしてつくられているのだろうから、これはこれでいいんだろうな。
 大前提として、面白いし、よくできているし、正しい。それを前提としていくつか記しておきたい。

  • 女女男というきょうだい構成の作為性、どうしても長子を女にしないと権力勾配的に正しくないんだろうな的な作為性を勘ぐってしまう。誰が食事をつくるかの描写や、口論の中での権力勾配を均すために、女女男である必要があったのだろうな、的な。
  • 正しさから、まあ男なんだろうなとわかってしまうところ。それは野木亜紀子もわかっていて、もう1段仕掛けてきたのでやられた!とは思ったが。
  • 坂元裕二・生方美久のやろうとしていることとの対比、他人の受け売りだが(おそらく宇野常寛だろう)坂元裕二・生方美久は、家族でない集団を模索してきていると理解していて、それはある種現代的な包摂を語るうえで極めて興味深いと思っているが、野木亜紀子(少なくともこのドラマに関しては)は家族万歳でしかなく、その点で物足りない。古舘寛治のバーがちょっとした居場所として描かれるが、仕事の関係であるし、家族の代替とはいいがたいだろう。

 いや、だがしかし、贅沢な出演陣の顔芸やチャーミングさが素晴らしい。松たか子の怒った顔、松たか子の所帯じみたしぐさ、東京03飯塚・タモリ俱楽部空耳俳優・宇野祥平の3段畳みかけ、多部未華子の隠しきれない品の良さ、などなど説教くさい路線の話のイマイチさを補って余りある魅力を感じた。
www.tbs.co.jp

2024年読んだ本・観た映画・観たドラマ

 昨年に倣い下記のように一覧に。やはり、振り返れてよいですね。引き続き死ぬまで習慣としていきたい。リストにすると改めて、時間を映画鑑賞よりも展示を見に行くことに向けていることを思い知る。
 昨年は

今年は、今更ながら教養みたいなものへの興味が復活したこと、手を動かしてものつくってみたいなという気持ちが復活したこと、漆への興味が顕在化したこと、「日曜の夜くらいは」が初めの方観ていた時の興奮が終盤に進むにつれて惜しむ気持ちに変わっていったことが思い出されるトピックスだろうか。

と書いていて、

  • 教養への興味は継続していて読書が続けられていることには満足
  • モノづくりへの興味は継続して、地図のパズルを3dモデルをもらって作成したり、Project plateauの資産を活用して住んでいる街や思い出のある街の3dモデルを印刷したりできている。5月時点でまだ3Dプリンタは休眠中だったのかというのが驚き。新工藝社に出会ったのが大きかったかも。自分でも編み編みをつくれるようになりたい。g-coordinatorをまだ使いこなせていない。
  • 漆への興味は休止中。3Dプリントしたものを漆で塗装したいという気持ちは継続して持っている。

というところか。また、科学哲学の勉強はしばらく間が空いてしまっているということに気づかされた。
 昨年同様以下には記述していないが、2024年の可処分時間の多くは、Podcast(アフター6ジャンクション2、桃山商事(の恋愛よももやまばなし)、ニュースコネクト、荻上チキ・Session、代官山ブックトラック、文化系トークラジオLifeフリーランスが学ぶ!企業社会の歩き方、速水健朗のこれはニュースではない)に費やされています。OVER THE SUNをあまり聴かなく(聴けなく)なって、Planetsのコンテンツは発信が減って、働き者ラジオやオトコの子育てよももやまばなしを聴くようになったところは変わったところかな。
読んだ本(いわゆる雑誌除く)

  1. 理系人に役立つ科学哲学 - 感想文未満の雑記帳
  2. 現代思想入門 - 感想文未満の雑記帳
  3. 疑似科学と科学の哲学 - 感想文未満の雑記帳
  4. 御社の特許戦略がダメな理由 - 感想文未満の雑記帳
  5. 彼女たちのまなざし - 感想文未満の雑記帳
  6. 未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則 - 感想文未満の雑記帳
  7. PHP2024年9月増刊号:孤独を癒やすヒント、楽しむコツ - 感想文未満の雑記帳
  8. 銃・病原菌・鉄 - 感想文未満の雑記帳
  9. 何もない部屋 - 感想文未満の雑記帳

観た映画(配信含む)

  1. すばらしき世界 - 感想文未満の雑記帳
  2. 理系人に役立つ科学哲学 - 感想文未満の雑記帳
  3. リズと青い鳥 - 感想文未満の雑記帳
  4. すずめの戸締まり - 感想文未満の雑記帳
  5. メタモルフォーゼの縁側 - 感想文未満の雑記帳
  6. シティーハンター - 感想文未満の雑記帳
  7. くれなずめ - 感想文未満の雑記帳
  8. カラオケ行こ! - 感想文未満の雑記帳

観た展示

  1. 江之浦測候所 - 感想文未満の雑記帳
  2. うるしとともに ―くらしのなかの漆芸美 - 感想文未満の雑記帳
  3. 第17回 shiseido art egg 第2期展 野村 在 展 - 感想文未満の雑記帳
  4. 未来のかけら: 科学とデザインの実験室 - 感想文未満の雑記帳
  5. 9 Häuser - 感想文未満の雑記帳
  6. Solarium - 感想文未満の雑記帳
  7. 大吉原展 - 感想文未満の雑記帳
  8. 第8回 横浜トリエンナーレ - 感想文未満の雑記帳
  9. nomena まだ意味のない機械 ― phenomenal #03 - 感想文未満の雑記帳
  10. プリズム・コネクト - 感想文未満の雑記帳
  11. 新工芸舎新作予約販売会2024夏 - 感想文未満の雑記帳
  12. 利部志穂 ⾔霊のさきわう地 − 天照、へリオス、カーネの夢 - 感想文未満の雑記帳
  13. 内藤礼 生まれておいで 生きておいで - 感想文未満の雑記帳
  14. 神楽岡久美 菅実花「PROTOPIA」 - 感想文未満の雑記帳
  15. 鈴木康広展 ただ今、発見しています。 - 感想文未満の雑記帳
  16. ヨーゼフ・ボイス ダイアローグ展 - 感想文未満の雑記帳
  17. 内藤礼 生まれておいで 生きておいで - 感想文未満の雑記帳
  18. ハニワと土偶の近代 - 感想文未満の雑記帳
  19. 中谷健一個展 驚異の部屋 - 感想文未満の雑記帳
  20. 束芋|そのあと - 感想文未満の雑記帳
  21. Automatic ・ Video ・ Communication - 感想文未満の雑記帳

観たドラマ(記録に残していないので記憶に残っているもののみ)

  1. 不適切にもほどがある!
  2. 新宿野戦病院
  3. 海のはじまり
  4. 虎に翼
  5. 家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった
  6. 団地のふたり
  7. 光る君へ
  8. 海に眠るダイヤモンド
  9. カーネーション(続く)
  10. カムカムエヴリバディ(続く)

1/1追記

も観ていたことに気づいた

Automatic ・ Video ・ Communication

 主に谷口暁彦を狙って。DDD ARTにて。
 まあ、申し訳ないけど、私にはどの作品もぐっと来なかったな。Meta Quest 3がすげえなというのが(いかにもで恐縮だが)印象に残った。
dddart.jp

束芋|そのあと

 ギャラリー小柳にて束芋|そのあと。土曜日とはいえ、束芋って結構集客力あるんだなと思った。
 たぶん束芋の作品をちゃんと観るのは初めてだと思う。クオリティはさすが。個人的には「夜と赤」が好きでした。解像度もよい。
 下世話な話ですが、なかなかな値札になっていてOh...という気持ちにもなった。
www.art-it.asia

何もない部屋

 福原悠介の何もない部屋。ことばとvol.8にて。
 選考座談会で評されていたように、ケチをつけられるところはいくらでもある。“三十そこら”の女性が描けていないように思えるし、作者の世界観が狭い?ようにも思える。というのも十歳の時の経験があるのならば、もっとうまくやれそう。また、雇われた手のライブのくだりから後、巧くない
 ただ、福田さんがこの趣味を始めたきっかけのくだり、作者にとって、震災を客体化して描くのにこの小説が必要だったのかなと思った。ここが書きたかったのかな、と。2日に分けて読んだのだけど、1日目は読み進めながら何か白々しいような気持ちがあったが、2日目は生き残ってしまった作者の気持ちに思いを寄せてしまって胸が詰まってしまった。そういう意味では、いい読み手ではないな、私は。
 無茶なことを言っていることは重々承知で、この小説を云々する権利がこの5人にあるのだろうかという思いに至ってしまった。そういう神聖な何かをこの小説に感じてしまった。
 雇われた手↔何もない部屋

ハニワと土偶の近代

 東京国立近代美術館にてハニワと土偶の近代。東博に比べ批評的で良いとの評を見て行ってきた。
anond.hatelabo.jp
 国民国家として仕上げていく過程で活用されてきた埴輪の歴史がよくわかった。私も年を取ってきてそういう気持ちがわかるようになってきた。何者でもない私のアイデンティティを補強してくれる、すがることのできる神話的なもの。
 素朴な造形の素朴には可愛がれない歴史。
haniwadogu-kindai.jp

 ショップで海洋堂岡本太郎傑作選が1100円で売っていてつい買ってしまった。Amazonだと転売屋が(1/5の確率に左右されず中身がわかるとはいえ)倍以上の価格で売っているのね。太陽の塔と犬の植木鉢を引きました。こどもの樹も欲しかったな。

銃・病原菌・鉄

 ジャレド・ダイアモンドの銃・病原菌・鉄。文庫で。
 おおむね導入と結論はプロローグとエピローグがまさに対応していて、そこだけ読めば何が書いてあるか、よくわかる。学術論文そのものの構成になっている。なぜヨーロッパ人が世界を制したのか、その理由を探す旅。
epilogueより

人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸 に居住した人びとが生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境 が異なっていたからである、と。

 NHK、3ヶ月でマスターする世界史にもなかなか日本は登場してこなかったように、日本はメインとしては登場しないので触れられていなかった点として、以下が気になった。
 開国の度合いが増して日本人人口が激減したという話は聞かないので、日本は昔から病原菌的な意味では開国していたということだろうか。
 また、13章に下記の記述があり、

たとえば、半導体アメリカで発明され、特許化されたのに、半導体製品の世界市場を牛耳っているのは日本である。これは、アメリカの対日本貿易赤字の一因ともなっている。どうしてこんなことになったのだろうか。

得も言われぬ気持ちになる。

カラオケ行こ!

 ラストマイル観に行こうと思っていたのがめんどくさくなって、野木亜紀子脚本ということでNetflixにて。監督山下敦弘なのね。エンドロールで気づいた始末。
 もちろん海に眠るダイヤモンドも欠かさず観ており、2024年時点で外せない作り手として野木亜紀子を認識していて、少なくとも近作は欠かさず目を通しているものの、作品によっては「正しさ」を満たしてはいるものの面白いと言い切れるかというとちょっと・・・というそういう位置づけで観ている。
 本作については、(もちろん家庭環境を描写することでエクスキューズはなされるものの)ヤクザという2024年現在では完全に正しくないとされるものを描いているので、その点、野木亜紀子の近作の中ではズレた位置づけになると思う。原作もののいいところですね。面白く観た。そして突飛な設定をメインキャストの2人のチャーミングさも魅力を底上げしている。
 思い返してみれば山下敦弘だからかというこってりしたギャグシーン含め、満足でした。